医療機関と患者との適切な関係性

第25回総代会の記念講演会では日経メディカルでもコラムを執筆している尾内康彦大阪府保険医協会参与に「国際化、ネット化時代のトラブル対策」について講演いただきました。

今回の講演は、尾内氏が長年相談を受けて来た患者トラブルについて、患者側の医療への臨み方の変化を社会の変化から分析。
 その上で応召義務の捉え方が、患者トラブルが起きる原因になっていると考え、尾内氏は医療機関と患者との適切な関係とは何かという視点から実際にトラブルに対応した経験をお話いただきました。


 「患者さま」という呼び方に端的に表れている、患者を消費者(お客様)のように扱う顧客至上主義の考え方が、1990年代から医療現場にも取り入れられていきました。
 本来、医師・歯科医師と患者とは平等な立場で、お互いに協力することで診療行為が成り立ちますが、近年の新自由主義の台頭から人々の価値観に変化が見られ、それは医療現場にも表れています。


 こうした顧客至上主義に立つ患者から発せられる悪質なクレームへ、医療機関が同じ価値観で「誠実」に対応することは事態の解決にはならないと尾内氏は話します。商行為と医療行為は違うものであることを改めて認識する必要があるでしょう。

応召義務をめぐる捉え方の変化

 正当な事由なしには診療を拒否できないとする応召義務の考えが、暴力暴言を伴う患者に対しても当てはまるのか。
 尾内氏は「適切な医療行為を期待できないほど信頼関係が破壊されている場合には診療を拒否する正当な事由がある」と言います。


 不当な理由で医療費を払わない患者や、ネット上への事実とは異なる書き込みなどは、まさしく適切な医療行為のための信頼関係を破壊するもので、尾内氏は自身が受けた相談事例を紹介しました。
 外国からの訪日観光客への未収金トラブルは、都市部の大規模病院などで問題になっており、観光立国を掲げながらもこうした問題への対策が考えられていない状況が浮き彫りになっています。


 近年のこうした患者の側の変化から、裁判での判例や、日本医師会の検討委員会でも応召義務について、診療を拒否できる「正当な事由」の解釈が若干柔軟に変化しています。


 参加者からは、「具体的な事例が多く取り上げられていて、とても参考になった」「講演の事例にもあるような患者が自院にも来院しており、対応を詳しく教えてほしい」などの感想が寄せられました。