パワハラ防止法が義務化されます

I LO(国際労働機関)条約との乖離

日本国内において労働相談は11年連続で100万件を超え、このうち最も多い相談が「いじめ・嫌がらせ」 で、2017年度には約7万2000件、2018年度には約8万3000件と増え続けています。こうした問題に対応するため政府は労働施策総合推進法を改正。2020年1月には「職場のパワーハラスメント防止のための指針」を策定しました。これによって大企業は2020年6月から、中小企業は2022年4月からパワハラ対策の実施が義務化されることになりました。

 義務化はされたものの、

①「業務を遂行する場所」、「優越的な関係」などの条件をつけて限定的に定義する傾向が見られること。
②「禁止」ではなく「措置義務」にとどまったこと。
③フリーランサーや就活中の学生へのハラスメントが対象外となっていることや被害者への救済制度の未整備など、ベースとなった国際労働機関(ILO)の「仕事の世界における暴力およびハラスメントの撤廃に関する条約」(2019年6月21日、設立100周年記念の第108回総会で採択)との乖離が指摘されています。
 指針ではパワハラの定義を「職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える、または職場環境を悪化させる行為」としています。
 しかし、「優位性」の要件は、職務上の地位にかかわらず、「あらゆる関係で起きる」ことが考えられます。また、パワハラかどうかは、セクハラと同様に行為者側の意図や思いとは関係ありません。その発言や言動で、「相手はどう感じるか」と想像し行動することが大切です。
 健康な職員をハラスメントの被害者にすることはその将来に大きな影響を与えるだけでなく、企業もその責任と存在意義が問われることを肝に銘じなくてはいけません。
 改正法では「パワハラ防止」に対する関心と理解を深め、働く人たちの言動に必要な注意を払うよう努めることが求められています。

企業に義務付けられた対策

~具体的な対策~
①企業方針等の明確化とそ の周知・啓発
 就業規則や服務規律を定めた文書で、パワハラを行ってはならない旨の方針を規定し、周知・啓発するための研修、講習等を実施する。
②相談に応じ適切に対応す る必要な体制整備(相談窓 口の設置)
 相談担当者を定める。対応するための制度を設ける。外部機関に相談対応を委託する。
③事後の迅速かつ適切な対 応
 事案に係る事実関係を迅速、正確に確認。被害を受けた職員に対する配慮のための措置を速やかにかつ適正に行う。
④あわせて講ずべき措置
 相談者、行為者のプライバシーの保護。不利益な取り扱いの禁止。
 法改正によって、事業所で働く人はあらゆるハラスメントに注意することが必要になり、事業主はこれらのハラスメントの相談に対応する体制整備が求められるようになりました。
 現在、不作為によりその職員に事故が起こった場合には、使用者の安全配慮義務違反として責任が追及されます。しかし、対策を適切に行うことで職場におけるパワハラのリスクが減り提訴されにくくなると考えられます。
 全ての人が、何が相手にとってハラスメントになるのかを考えることで、ハラスメント問題を自分の事として捉え、風通しのいい職場環境をつくるきっかけとして取り組んでいただければと思います。(舟越雄祐社会保険労務士)