中東での戦禍の拡大と私たち

2025年6月13日、イスラエルはイランの首都テヘランや核開発施設に対して先制攻撃となるミサイル攻撃を行い、さらに22日には、今度はアメリカがイラン本土に対して先制攻撃を行い、核施設を空爆するという前代未聞の事態を引き起こしました。

第二次世界大戦後の国際規範である武力行使の原則禁止(国連憲章2条4項)が、2022年のウクライナ戦争におけるロシアや、今回のイラン攻撃でのアメリカなどの超大国によって、もはや公然と破られているのです。

「力による平和」は事態悪化の可能性に

イスラエルの攻撃直後、トランプ大統領は参戦に慎重と報じられていましたが、19日に2週間の猶予を示してからすぐの、22日未明(イラン現地時間)にイラン本土への先制攻撃となり、核施設を標的にバンカーバスターが使用されました。

イスラエルとイランは24日に停戦に合意しましたが、一部報道ではイランは攻撃前に核物質を搬出したと見られ、核兵器開発能力も保持しているとされています。
 
トランプ大統領のイラン核施設への攻撃は国連安保理での議決を経たものではなく、アメリカ議会への報告義務も果たしていません。西側首脳はこぞってトランプ大統領を称え、イランの核開発を焦点としていますが、IAEAは「(イランによる)核兵器開発に向けた組織的な取り組みの証拠を持っていない」としており、大儀の疑わしい戦争を強行する姿は、9.11後のブッシュ政権の再来か、それ以上のものに思えます。

今回のアメリカの攻撃があっても、イスラエルはイランの体制転換を望み続け、イエメンのフーシ派など親イラン武装組織が存在することにも変わりありません。そしてイランが核開発について態度を硬化させている現状から、武力によって強いる「力による平和」では、和平どころか、むしろ、さらなる不安定化と事態悪化の可能性を増やしたとみるべきではないでしょうか。

また、トランプ大統領はイランの核施設への攻撃をアジア太平洋戦争での広島・長崎への原爆投下になぞらえて正当化しました。これは、世界中の被ばく者をはじめとした多くの人々が訴える、核廃絶と反戦への運動や願いを無にするものでもあります。

食糧配給での「死の罠」狙われる民間人

報道ではイランへの攻撃の陰に隠れてしまったかのようなパレスチナ・ガザ地区では、現在もイスラエルの軍事占領が続いています。

現在、イスラエルは国連や他の援助団体による支援物資を積んだトラック数十台のガザ入りを許可していますが、食料供給は不十分で専門家らが飢饉に陥る可能性を警告しているような状況です(6.25 BBC)。そうした中、アメリカ・イスラエルが支援するガザ人道財団(GHF)の食料配給時に、民間人がイスラエル軍によって銃撃される事件が発生しています。

国連人権高等弁務官事務所は「食料を市民に対する兵器としてしまったことに加え、生命維持に必要なサービスへのアクセスを制限または遮断することは、戦争犯罪に当たる」と発表し、また、国連人権パレスチナ難民救済事業機関はこれを「死の罠」であると表し、GHFの援助体制を非難しています。

2025年2月、トランプ大統領はガザ住民の移住を伴うパレスチナでのリゾート計画をSNSに投稿。
5月4日にはイスラエルの閣議で、ガザへの攻撃強化と占領計画が決定され、そこにはパレスチナ人の強制移住が含まれています。住民の強制移住はジュネーブ条約(アメリカ・イスラエルとも批准)で禁止されているものです。

力の非対称性を念頭に現在の構図を考える

力関係では圧倒的強者であるイスラエルが、弱者であるガザからの攻撃や抵抗を「ホロコースト」と断じて軍事行動を行う姿に、倒錯した被害者意識が読み取れます。その被害者意識から相手を徹底的にせん滅しようとする姿は、かつて朝鮮や満州を支配し、反乱民に対して軍隊がせん滅戦を行った日本と類似しています。

現在のイスラエル・アメリカの中東における戦争の報道に触れるとき、私たちはそこに過去の日本人の行いも同時に見ることになり、私たちにはそのことをどう考えるかが問われています。

事務局 中瀬