2022年の総代会記念講演会のタイトルは「脱成長と新しい豊かさ~パンデミックの経験から」ですが、この講演会を聞く前に、知っておくと理解に役立つかもしれない豆知識をご紹介します。
脱構築という概念~二項対立の解体
脱構築とは、善と悪、自己と他者といった単一の価値観による二項対立を解体し、新たな価値観を創造する考え方のことで、もともとはフランスの哲学者ジャック・デリダによって提唱された概念です。
例えば、「成長/衰退」という二項対立は、成長=豊かさという前提から、「成長がなければ豊かではない」という、ある一つの価値観の上での二項対立なのです。
しかし、豊かさが成長には関係ない次元で成り立つとなれば、先ほどの「成長/衰退」はもはや対立する概念ではなくなり、私たちは成長から脱して、新しい豊かさを見出せば良いことになります。
また、これは新たな別の「成長」を見つけることではありません。
ある価値観の中で「再構築」を行うのではなく、「脱構築」は、あえて論点をずらして考えることによって、二項対立に陥らず、より積極的な新しい考えを生みだすものなのです。
「豊かさ」の引き換え~あらゆるモノの商品化
私たちの豊かな生活を、斎藤幸平さんは『人新世の資本論』の中で「帝国的生活様式」と表しています。「帝国?」「帝国主義は前世紀の遺物なのではないの?」と思われる方も多くいらっしゃると思います。
一体どういう意味合いで使われているのかというと、いわゆる先進国の日本に住む私たちは、資源や製品を「商品」として、人件費の安い開発途上国で生産・輸入しています。
それら商品を安い価格で購入することで「豊かな生活」が維持されている半面、このような先進国と開発途上国との関係が維持される限り、経済的格差は無くならず、開発途上国は先進国に経済的に従属せざるを得ません。
こうした、先進国にとって有利で、開発途上国にとって不利であるという自由貿易体制の問題は、1960年代にプレビッシュ「中心と周辺」や、ガルトゥング「構造的暴力」などによって提起されています。
私たちの「豊かな生活」が開発途上国の低開発の上に成り立っているという点で、これは収奪であり、「帝国的」とされる所以です。
「新しい豊かさ」とは何か
斎藤幸平さんは、人類の生存にかかわる根本的な問題である気候危機に立ち向かうため、労働のあり方やコモンについて晩期マルクスを再評価して、私たちの今後の進む方向を『人新世の資本論』で示しています。
講演会で斎藤さんが語る「新しい豊かさ」とは、どのようなものなのか、参加者の皆さんと一緒に考えていきたいと思います。(事務局 中瀬)