本紙先月号では、全国連絡会での学習会(講師:杉本貴志さん)の報告をしました。講師も来場した2012年の国際協同組合年に開催された協同組合の万博では、経済的に弱い立場にある途上国の生産者に対して、公平・公正な取引を行い、生産者の自立と、自然環境を保護することを目指すフェアトレードのブースが最も注目を集めていたことが紹介されていました。日本は上記万博には不参加でしたが、過去には、生産者と消費者を結ぼうとする活動がありました。
食卓になじみ深いエビはどこからやって来る?
『エビと日本人』1988(岩波書店)という新書をご存知でしょうか?本書は、エビの生産と、それに関わる人々が置かれた生活実態と経済構造、国内の消費構造を調査し、さらに輸入冷凍エビの消費が促進される背景に迫って、私たちの消費生活がどのような構造に支えられているかを明らかにした労作です。なお、『バナナと日本人』というバナナの生産・消費をめぐる新書もあります。
日本人のエビ消費量は、発刊当時、増加を続けていました。1960年には消費されたエビの98%が国内産でしたが、輸入自由化で1986年には87%が輸入のエビと、大きな変化があります。実は、冷凍エビは水産業者にとって最も儲かる魚で、輸入自由化後の1960年代には国内の消費環境が官民一体となって整備され、それに伴って消費量が増加をしている背景があります。
生産地の現状を調査する
一方で、国際市場に出荷されるエビの生産地の調査では、外国の資本の影響を受ける現地の様子が報告されています。養殖は、池主が小作人を雇い、養殖の邪魔になる魚を、駆除のため釣りをする女性、収穫期のみ雇われる小作、こうした人々に担われています。
小作人は養殖の取り分だけでは生活が厳しいので、水田の手伝いなど掛け持ちをし、池主も経営費用や生活費を集買人(コーディネーターという)に前借りし、エビの代金で相殺をするというのが実態です。さらに上部に大集買人、輸出企業がいるという構造です。コーディネーターは、元は漁村や養殖村のリーダー的な存在の人々でした。エビが国際マーケットに結びついてからは、エビの売買、人工飼料・氷などの購入で、外の資本が流入し、前借金などで地域そのものが外の資本に依存・従属する態勢が形作られたのです。
過去の調査から私たちが学ぶべきもの
本書ではさらに、生産国での、エビによる現金収入は均等な配分がされず、貧富の差を拡大させていること、環境面でも雑魚の大量投棄やマングローブ林の破壊、地下水の枯渇等を報告。また将来的に、生産地の人々が、生活や文化を奪われる可能性を指摘します。
企業にとっての商品価値とも言える「安い・美味い・安心」という消費者のメリットにより、「美味しい生活」を享受する私たちは、届く商品とは裏腹に、生産者・漁民の置かれた状況を知らないのではないか? 無関心でいて良いのか? と本書は私たちに投げかけます。
事務局 中瀬