福島原発事故から今年の3月で11年が経過します。今号では、原発に関する「いま」をレポートします。「復興五輪」と謳われた東京オリンピック開催の華々しさとは裏腹に、2011年3月11日に発出された原子力緊急事態宣言は現在に至るまで解除されていません。
にもかかわらず、帰還困難区域の除染範囲を帰還希望者の自宅周辺のみに限定したり、トリチウムを含んだALPS処理水の海洋放出方針の決定など、私たちは原発震災に対して厳しい現実に向き合わざるを得ません。
水素爆発の全容は解明に至っていない
福島第一原発事故では1、3、4号機が水素爆発を起こし、環境中に大量の放射性物質を放出することになってしまいました。しかし、水素爆発について、水素がいつどれだけ発生し、格納容器外の原子炉建屋にどのような経路で漏洩したのかが現在でも解明されていません。
原子炉圧力容器につながる復水器の配管が地震によって破壊され水素が漏洩した可能性や、運転停止中だった4号機の水素爆発が3号機で発生した水素の逆流としか考えられない点、ベントが電源喪失で機能せず水素の滞留や逆流が起きたことなど、いまだ原因や対策に関する知見が確立していないことが多くあります。
柏崎刈羽原発6、7号機(東電)では最上階の壁面のみに水素を水にして除去する装置(PAR)を取り付け、変更許可が認められています。
しかし福島第一原発では下層階でも爆発やその起点となった可能性があること、また水素は軽く、より高いところへ向かうにも関わらず、天井面にP ARは設置されず、本当に十分な対策と言えるのか疑問が残ります。
見通しが不透明な小型モジュール炉
最近では原発の新設に関して、2021年の衆院選において一部政党が小型モジュール式原子炉(SMR)の導入を公約に掲げました。SMRは発電量30万kW以下の小型原発で、小型ほどコストが高い原発にあって、コスト低減を大量生産により達成するとされています。
ですが、コストが低下するまでには高価なS MRを大量に製造販売する必要があり、見通しは非常に険しいと言います。安全性についてもアメリカ原子力規制委員会でも認証の途中であり、また、放射性廃棄物処理の問題は切り離せません。
司法判断の到達点
昨年3月の水戸地裁での東海第二原発(日本原電)運転差止判決では、原発は過酷事故時に周辺住民の生命、身体へ深刻な被害をもたらす本質的危険性を内在し、他の科学技術の利用に伴う事故とは質的に異なる、などの「争いのない前提事実」が示されました。
本判決は避難計画の不十分さからの運転差止ですが、福島の事故を受けて、原発そのものの危険性を司法が認定するようになりました。(事務局 中瀬)
〇参考資料〇
「原子力資料情報室通信」563号,565号,566号,572号