今年(2026年)は2011年の東日本大震災と福島原発事故から15年目にあたり、またチェルノブイリ原発事故から40年です。現在も原子力緊急事態宣言は解除されず、昨年11月時点の県外避難は2万3701人(福島民報)、また、事故後の作業に携わった作業員では、14人がガンの労災認定を受けています。
批判的専門性の組織化
皆さんは、高木仁三郎という科学者をご存知でしょうか。高木仁三郎は、NPO法人原子力資料情報室で原発やプルトニウムの危険性を研究し、社会に対して公開してきました。 その活動は、原子力に関連する産業界から独立した立場で行われています。
原発などの巨大化した現代の科学・技術が、事故などで一人ひとりの人間に与える影響は計り知れません。そこで、被害を受ける市民の側から、国や企業が進めようとする科学・技術のあり方とは、違う方向性での科学・技術を獲得する必要があります。
しかし、専門知識がなければ、国や企業の科学・技術政策や具体的な計画への有効な批判ができないため、独立した専門的批判の組織化が求められるのです。組織であることの必要性は、個別の専門家による自発的な協力に頼るだけでは、行政・企業の政治的・経済的なしめつけへの対応に立ち遅れてしまうためです。
オルタナティブな科学
高木仁三郎は、こうした市民の側からの科学を「市民の科学」と呼びました。これは、国家や産業界などによって構成される体制側の科学とは異なる視点からの、もう1つの(オルタナティブな)科学への志向です。
高木の場合、「体制から離れた自前の科学・技術をめざす」ことになったきっかけは学生闘争でした。60年代末に公害問題やベトナム戦争から生じた「科学・技術は社会問題の解決ではなく、逆に戦争や公害に加担しているのではないか」という疑問から、学生闘争で提起された「学問とは何か」という現代の科学・技術そのものへの問い直しが出発点となったのです。
そもそも、現代の科学・技術は、国家・産業界による要請が研究資金の配分などに強い影響を及ぼすように、社会経済の要請が科学・技術の方向性に影響することを無視できません。また、パラダイムシフト(トーマス・クーン)は、歴史上で「科学の発展」と呼ばれるものは、それまで基本としていた価値観が変わること(パラダイムシフト)で引き起こされるとし、価値観という、物事を考えるための前提が、科学・技術に影響を与えることを指摘しています。
以上のことから、科学・技術は、それを取り巻く社会や経済の要請、そして研究者自身の価値観を無視することはできず、社会に対して無価値で絶対的な存在でいることはできません。
独立した研究機関の存在意義
独立した組織である原子力資料情報室は、福島第一原発の事故の際、事故に不安を抱く市民に、原子力安全委員会や原子力推進側の科学者とは異なる立場から、事故の状況に対する科学的な見解を発信し続け、その真価を発揮しました。市民の営為による科学・技術というあり方は、日本ではなかなか馴染みが薄いのですが、海外では非営利の研究機関が活動し、市民と行政の橋渡しの役割を担っています。
高木仁三郎の提唱するオルタナティブな科学=「市民の科学」は、今、改めて注目すべき概念といえるでしょう。
事務局 中瀬
