保険医協同組合では、第 32回総代会記念講演会を「睡眠時無呼吸に医科と歯科が連携するとどんな対処が可能になるのか」というテーマで、2026年6月6日に開催しました。
ここでは、司会を務めた当協同組合の清水義夫理事(清水歯科医院・長野市)が、講演会についてまとめました。
深刻な社会問題となっている睡眠時無呼吸症候群
近年、深刻な社会問題となっている睡眠時無呼吸症候群。これに対し、医科と歯科がどのように連携し、患者の健康を守っていくべきかについて、内科医の八重樫弘信氏(ひろ内科医院)と、歯科医師の藤巻弘太郎氏(ぶばいオハナ歯科、日本睡眠歯科学会理事)の2名が登壇し、それぞれの専門的知見から講演とディスカッションを行った。
内科の立場から:多様な治療選択肢と連携の重要性
前半は、睡眠障害内科・呼吸器内科を標榜する八重樫弘信氏が「睡眠時無呼吸症候群にいかに取り組むか」と題して登壇した。八重樫氏はまず、睡眠時無呼吸症候群の潜在患者数が日本全国で約940万人に上ると推計される現状を指摘した。患者は日中の強い眠気やいびきのほか、夜間頻尿や起床時の頭痛など多様な症状を訴える。特に問題視されるのは合併症の多さである。高血圧、糖尿病、心疾患、脳卒中など様々な全身疾患の引き金となり、重症の無呼吸を放置した場合、生存率が著しく低下するという衝撃的なデータも示された。
診断には、在宅睡眠時無呼吸検査(HSAT)や入院による終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)が用いられる。治療の第一選択として多く用いられるのが、鼻から空気を送り込んで気道を広げるCPAP(持続陽圧呼吸療法)である。しかし、すべての患者がCPAPを継続できるわけではなく、およそ5人に1人は治療から脱落してしまうという。そこで重要となるのが他科との連携だ。CPAPが適応外、あるいは継続困難な患者に対しては、歯科に依頼してマウスピース(口腔内装置:OA)を作成してもらう。また、扁桃腺肥大が原因の場合は耳鼻咽喉科での手術、肥満患者への減量指導や新しい肥満症治療薬の活用、さらに近年では舌下神経電気刺激療法といった新たな選択肢も登場していると幅広く紹介した。
八重樫氏は、今年6月からのCPAP保険適用基準の変更点についても詳しく解説し、厳格化する制度の中で、医科から歯科へマウスピースの作成を依頼する際の情報提供のあり方や、顔の見える関係づくりの重要性を強調した。
歯科の立場から:潜在患者の発見と「診断」の徹底
後半は、歯科の立場から藤巻弘太郎氏が登壇した。藤巻氏は、日本人の平均睡眠時間が世界最下位であり、それがもたらす経済損失や学力低下の深刻さを指摘した。その上で、歯科領域が担う睡眠医療として、睡眠時無呼吸や睡眠時の歯ぎしり・食い縛り(ブラキシズム)への対応を挙げた。
歯科医院は定期検診などで患者の口腔内を直接観察する機会が多く、肥満や顎の形態、舌の大きさ、さらには日常の会話から、潜在的な睡眠障害の兆候を見つけ出しやすい環境にある。
無呼吸治療における歯科の主な役割は、下顎を前方に移動させて気道を確保するマウスピースの作成である。しかし藤巻氏は、「我々歯科は単なる『物作り屋』や『修理屋』になってはいけない」と強く警鐘を鳴らす。マウスピースを作成する前には、まず医科を受診させて確実な「診断」を受けることが不可欠であると強調した。歯科医は無呼吸の確定診断ができないため、疑わしい患者を見つけたら紹介状を書き、医科での検査を促す必要がある。また、アレルギー性鼻炎などで鼻呼吸ができない患者には、マウスピースが苦痛となり治療効果が出ないため、耳鼻科への受診を勧めるなど、総合的な視野を持った対応が求められるとした。
さらに、マウスピースを装着して終わりではなく、装着後の効果判定検査を再び医科に依頼し、定期的な経過観察を行うという「手紙のキャッチボール」による連携が不可欠だと訴えた。
ディスカッション:顔の見えるネットワーク構築へ
講演の最後には、両氏によるディスカッションが行われた。長野県内に多数存在するであろう未治療の患者をいかに医療に繋げるかという課題に対し、藤巻氏は「歯科の受付やスタッフを含め、患者との日常的な雑談から眠気やいびきの兆候を拾い上げ、医科の受診を勧めることが第一歩になる」と提案した。八重樫氏も、睡眠時無呼吸の治療における医科歯科連携の密接さを再確認し、紹介状や情報提供を通じた相互理解の深化が不可欠であると応じた。
らに、紹介先となる医療機関がどのレベルの検査や治療に対応しているかを互いに把握することの難しさも浮き彫りになり、日頃からのコミュニケーションを通じたネットワーク構築が今後の課題として挙げられた。
睡眠時無呼吸という全身に影響を及ぼす疾患に対し、医科の正確な診断と包括的な治療、そして歯科のきめ細やかな口腔内管理と患者発見のスクリーニング機能。この両輪が機能することで、県民の健康寿命の延伸と生活の質の向上に大きく貢献することが期待される。有意義な議論が交わされた本講演会は、医療従事者にとって今後の実践に向けた大きな指標となるものであった。
*講演会の様子は配信をしております
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