東日本大震災から12年。朝日新聞(3月3日号)は2010年からの国勢調査のデータを比較し、一次産業の担い手が激減、沿岸部の少子化、若年層の流出を指摘しています。特に原発周辺自治体での人口に占める子どもの割合の低さは特徴的です。
東日本 大震災に関連した2023年の番組から、NHK(Eテレ)の「ハートネットTV」で「命輝く力に~原発被災地の医師~(2023.3.7)」「忘れじの大熊町(2023.3.8)」(日付は初回放送日)の2本の番組が印象に残ったので紹介します。
原発被災地での人々の暮らし
「命輝く力に」は、全村避難が解除された飯館村在住の唯一の医師、本田徹さん(75才)が、震災前の4分の1(約1500人)の人口になった村で診療活動を行う様子を取材したものです。飯舘村唯一の診療所は、人口減少から週2日のみの診療となり、本田医師は診療所に来れない患者さんのため訪問診療もしています。
入院も選択肢となるような高齢者にも、帰還した村で暮らしたいという本人の意向を尊重した治療方針をとり、「その人の本来の「命の輝き」がまた取り戻せるように」「その人をその人たらしめている『価値観』とか『生きがい』を大事にしてあげる」と本田医師は語ります。
「忘れじの大熊町」は、福島第一原発が立地する大熊町にあるグループホームで暮らす、17人の認知症の高齢者の日々を映します。そこでは、原発事故の記憶は忘れてしまっても、若い頃の土地の開墾や、原発で働いたこと、終の棲家として建てた家、今は亡き家族のことなどが語られ、夕方になると「家に帰りたい」と話す高齢者たちの姿が。
原発事故から12年。大熊町は帰還困難区域の一部解除があったものの、家々は朽ち、街はかつての面影を失っています。奪われた故郷の思い出を語る高齢者の姿に、原発事故の取返しのつかなさが表れています。
原子力政策の今後は
2023年2月10日、原子力政策では岸田首相がGX(グリーントランスフォーメーション)基本方針と推進法案を閣議決定しました。この基本方針は、既設炉の最大限の活用、原発運転期間の延長(40年から60年に、検査などで運転を休止した期間は運転期間に含めない)、次世代革新炉の開発・建設が基本となっています。
しかし、原子炉はもともと40年寿命で設計されており、運転休止中でも原子炉容器は照射脆化(金属が中性子の照射を受けると展延性を失い脆くなる)が進むため、緊急時の破損リスクは年数とともに高くなります。
革新炉はコスト面と実現可能性が不透明
革新炉と呼ばれるものには現行世代炉に機能を追加した革新軽水炉や小型軽水炉、高速炉などを指します。このうち高速炉は、理論上は放射性廃棄物を低減させられますが、高速増殖炉「もんじゅ」への巨額の資金の投入と、開発の失敗の総括も無いまま、原型炉すら完成していない高速炉を、いきなり実証炉から開発を行うのは無理があるといえます。
「ALPS処理水」放出の問題点は?
政府・東電は、漁業者の賛成なしには放出しないとした、当初の約束を反故にしてALPS処理水の海洋放出を、今年から行う方針ですが、問題は山積しています。
アメリカのシンクタンク「環境とエネルギー調査研究所(IEER)」所長のマキジャニ博士は、ストロンチウム90のような微量でも骨に蓄積される元素の、海洋放出による影響は十分に考慮されていないと指摘。また、博士はタンク内に沈殿した汚泥の核種が測定されていない問題や、サンプルの測定値のバラツキから、性能通りの除去がALPSで行えているのかを東京電力に質問しましたが、回答はありませんでした。
結局、ALPS「処理水」は放出濃度が基準値以下とはいえ、放射性の産業・災害廃棄物であることには変わりがないのです。私たちは、原発の技術的・経済的な先行きの不透明性や、放射性廃棄物の今後数万年におよぶ保管などの問題を抱えています。
福島第一原発の事故は、未だに全体像の解明には至っていませんが、そんな中で原発の再稼働や「処理水」放出が進められようとしています。 (事務局 中瀬)
写真:飯島春光さん提供 2012年9月撮影