本紙7月号では、『堤未果のショック・ドクトリン』を取り上げました。今号ではその原典ともいうべき、ナオミ・クライン『ショック・ドクトリン』(岩波書店2011)を詳しくご紹介します。
「真の変革」をもたらすのは危機的状況
シカゴ学派の統領ともいうべきミルトン・フリードマンは自著『資本主義と自由』1982の序で、「現実の、あるいはそう受けとめられた危機のみが、真の変革をもたらす」と記しています。「現実の、あるいはそう受けとめられた危機」とはどういう状態を指しているのでしょうか?
ナオミ・クライン『ショック・ドクトリン』は、人為的に作り出された「危機」や、実際に訪れた「危機」によって、大きなショック状態に陥った人々と、そのショックを利用してフリードマンらシカゴ学派が用意した急進的な新自由主義経済政策(ドクトリン)を一挙に推進するというプロセスを、1970年代以降の様々な国々の事例を丹念に分析しています。
ショック・ドクトリンは世界中各地で行われる
ショック状態を作り出す事例として、ショック・ドクトリンの初期である70年代南米南部地域(チリなど)では、軍事独裁政権によるクーデターと、反体制的な考えを持つ人々への拷問がショックとなり、シカゴ学派のフリードマンの弟子たちが立案した新自由主義的経済政策が実現に移されていくのです。
しかし、民主主義国家ではこうした方法をとることは不可能でしたが、1980年代イギリスのサッチャー政権は拷問やクーデターではなく、フォークランド紛争(82年4月)による愛国心の高揚を利用し、戦争の「外敵」を、「内なる敵」として自国の労組にすげ替えてイギリス最大の労組である炭鉱労組潰しをし、数々の民営化へと向かいます。
ボリビアでは1985年に1万4千%にも及ぶハイパーインフレに陥り、この後、選挙で選ばれた大統領は、秘密チームを結成して食料補助金の廃止、石油価格の300%引き上げ、国営企業の規模縮小(民営化の前準備)など、選挙の公約とは正反対の経済政策を一挙に行い、人々は徒労感に見舞われ無抵抗となりました。
ボリビアではハイパーインフレというショックを受け、民主主義国家でありながらサッチャーやレーガンよりも強力に新自由主義的改革が行われたのです。
ショックから覚醒する人々
ボリビアでの「成功」はショック・ドクトリンのパッケージ化へと進み、アジア通貨危機などを経験します。経済的危機やハリケーン、地震、9.11のようなテロなどの危機を契機とする「惨事便乗型資本主義」です。
『ショック・ドクトリン』は、現代史を考える上で必要となる視座を私たちに与えてくれます。ショックから覚醒した人々は、どのような行動を取っているのか、ぜひ本書を読んでみてください。 (事務局:中瀬)