おすすめ 書籍『堤未果のショック・ドクトリン』

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『堤未果のショック・ドクトリン』は、今年の5月に出版された新書です。「ショック・ドクトリン」とは、戦争や自然災害などで人々がショック状態に陥り思考が停止している所を狙って、新自由主義改革が急進的に行われるというものです。惨事便乗型資本主義とも言われます。
 
ナオミ・クラインが2007年に出版した『ショック・ドクトリン』というタイトルの本(2011年に日本語訳版が出版)で広く知られ、Eテレ「100分de名著」6月(堤未果さんが指南役)でも紹介されているので、ご存知の組合員も多いと思います。

“考える隙を与えるな!”

『堤未果のショック・ドクトリン』では、パンデミックで空前の利益を得る製薬会社や、マイナンバーカード普及による個人情報の一元管理など、日本での事例が取り上げられています。
 
ちなみに、マイナンバー制度は、カード取得によるポイント付与キャンペーンが2020年9月から開始で、コロナというショックの隙に、強力に推進されていることが分かります。
 
人々に考える隙を与えず、国家が企業などの大資本と協力関係を築き(コーポラティズム国家)、新自由主義を推進して、ごく一部の人間が大儲けをする――、これこそがショック・ドクトリンなのです。
 
コロナパンデミックでは他にも、WHOの「医療ファシズム」ともいうべき「パンデミック条約」(パンデミック時に条約加盟国の政府よりも強い権限がWHOに与えられる)の案が出されるなどの動きも、堤さんは紹介しています。

ショック・ドクトリンの猛威が吹き荒れた南米

ナオミ・クライン『ショック・ドクトリン』では、70年代の南米における軍事独裁政権や、80年代イギリス、9.11後のアメリカ・イラクなどで、どのようなショックが用いられて新自由主義改革が行われたかを詳細に分析しています。
 
例えば、70年代のチリでは、選挙によって選ばれた政権が軍によるクーデターで倒され、民衆に対しての拷問や誘拐が横行。
 
人々は恐怖から、軍事独裁政権を受け入れざるを得ず、それまで有効に機能していた社会保障制度や国有企業などが解体され、一部の資本家や国際企業がそれらを破格の値段で買い漁り、巨額の利益を手にしました。
 
一方で、クーデター前までは南米の模範とされた経済は崩壊寸前まで追い込まれ、高い失業率と貧困が市民生活に襲いかかります。
 
こうしたクーデターと拷問というショック状態の創出と、急進的な新自由主義改革はセットで計画され、その計画には経済学者ミルトン・フリードマン(シカゴ大学)や弟子達(通称シカゴ・ボーイズ)が密接に関わっていました。
 
クーデター時には、シカゴ・ボーイズによる今後の経済計画のシナリオが出来上がっていたほどです。

強欲な資本主義に対抗する

『堤未果のショック・ドクトリン』では、気候危機を口実にした強欲な資本主義の動向に、「おかしい」と感じて対抗した、国内やオランダの事例が紹介されています。
 
たとえ最初は小さな規模であっても、考え行動することの大切さと、個人が分断される中、他の人々とつながりを持てる社会の中間団体(協同組合など)の可能性を再認識させられます。