院外処方に切り替えた

開業以来30年以上、大部分を院内処方でやってきましたが、後継予定の医師が昨年春から勤務し、彼の意見に従って今年の春からほとんどを院外処方に切り替えました。そこで経験したことへの感想を書きたいと思います。

医薬品確保の苦労がなくなった

まずはずいぶん楽になったというのが、とりあえずの感想です。とくに最近、供給不足が起こっている中での医薬品の確保には苦労していましたが、その苦労がなくなったことはてても大きいです。

調剤の労力の面でも、特に精神科では長期の服薬が必要な人が多いし、種類の多い人もいます。そのため、ほとんどの患者さんに一包化してお渡ししていましたので、調剤の労力が不要になったのが大きいです。コスト面でも、スタッフ1名分の人件費、分包機の減価償却費、それに分包紙代や電気代がかかっていました。当然、そのコストは年間、数100万円にはなったでしょう。このコストのかなりの部分が不要になるはずで、しかも保険診療では、1回一人当たりの処方箋料のほうが調剤料よりも100円ほど高いのです。

昔は、この差はいわゆる「薬価差益」で補えたし、むしろそれによる利益のほうが大きいこともあったのでしょう。ただし精神科の薬は安かったので、小生はこの恩恵に浴したことはほとんどありません。とくにここ10年ほどは、消費税を入れると逆ザヤになってしまうものまで現れる始末でした。患者さんの利便性を考えて院内調剤にしただけのことですが、そういう厚意は通じにくいので、「クスリで儲かっていいね」と嫌味をいわれたこともあります。

薬剤の棚卸がほとんど不要に
この30年、大晦日近くになるとスタッフ1名に出勤してもらい、丸1日をつぶして「棚卸」をやってきました。それぞれの薬剤につき在庫数量を調べて、購入価格をかけ、金額を算出するわけです。それをすべての医薬品について行い、さらにその他の消耗品についても行うのですから結構な労力になります。今年の年末から、これがほとんど不要になります。

院外処方箋にしたからといって、いいことづくめではありません

しかし、院外処方箋にしたからといって、いいことづくめではありません。まず、院内調剤の時にかかっていたコストが不要なるといっても、実際にカットできるのはほんの一部だけです。

また、調剤薬局というところは、それぞれが個性的で、たとえば処方箋の書き方についても正反対のクレームが来ます。ですから、それぞれの薬局のお気に入りのスタイルにしなければなりません。一包化をしたがらない薬局さんもあります。クスリについての情報をやや過剰に患者さんに伝える薬局さんもありますから、患者さんが不安になって服薬しなくなったりすることもあります。これらにともなうトラブルもありますし、心情的にも、ほとんど完全に厚労省の統制経済の中に入ってしまった口惜しさともあります。以上、トータルするとプラマイゼロといったところでしょうか。

加藤信(松本市・かとうメンタルクリニック)