緊迫の中東情勢を読み解く

岩波書店の『世界』2024年1月号の特集は「ふたつの戦争、ひとつの世界」でした。「ふたつの戦争」とは、言うまでもなくロシア―ウクライナ戦争と、イスラエルのガザ侵攻ですが、11月現在では、北朝鮮軍の兵士がロシアの軍事行動に派兵され、中東地域の紛争では、イスラエルは周辺国へも戦火を広げています。

ガザ地区の惨状

本紙2、3月号でも、パレスチナ紛争を取り上げ、イスラエルの植民地主義の実態や、紛争と軌を一にするような欧米諸国の右傾化、「対テロ戦争」という言葉の危険性を解説しました。しかし「ふたつの戦争」は、連日、国際情勢のニュースで取り上げられていますが、全体として社会の関心は低いように思われます。

国連機関によると、昨年 10月の戦闘開始以降1年で、イスラエルの攻撃によりガザ地区では4万1500人以上が亡くなり、うち3割は子どもであることが分かっています。ガザ地区では水、食料、医薬品、燃料が枯渇し、病院では麻酔なしでの手術も行われ、また病院そのものが攻撃を受けて破壊され、医療崩壊の様相です。

憎悪の連鎖

イスラエルは、ガザ地区攻撃やレバノン侵攻、イランへの攻撃を自衛のためと主張しています。昨年10月7日のハマスによる越境攻撃を起点として物事をみれば、そのようなロジックが成り立つかもしれません。
 
しかし、国連総長が「ハマスの攻撃は真空の中から起こったのではない」と発言するように、10.7以前の「天井のない監獄」と言われるイスラエルによるガザ地区の封鎖(民間人を巻き込んだ封鎖で、人道に対する犯罪やジェノサイドに当たる)を考慮しなければ、憎悪の連鎖を止めることはできません。ちなみに、国連でのイスラエルの振る舞いは、かつて日本が中国での権益を主張し、ついには1933年に国際連盟を脱退した姿と重なって見えます。
 

「対テロ戦争」の超克

私たちは、9.11以降に定着してしまった「対テロ戦争」というイデオロギーを考え直す必要があります。例えば、「ジハード」という言葉を、おそらくほとんどの日本人は「聖戦」という意味で捉えているものと思いますが、本来の意味では「神の道にまい進するための努力」です。

実際に、東京にあるモスク(マスジド大塚)では、宗教や国籍を問わず困窮者に対する支援活動を行っており、ここでは隣人のために尽くすことがジハードなのです。
 
中村哲さんも、人々のために尽くす活動を行った中の一人といえるでしょう。「テロ」という言葉は、彼我の非対称性を忘却させ、「敵」を不可視化し、戦争による殺人を正当化する危険を含んでおり、注意しなければ使う側が憎悪を煽ったりヘイトに加担する可能性があります。

こうした危険性を自覚しなければ、地道に地域の中で活動している人々を排除することにつながりかねません。  (事務局 中瀬)