立ち止まって考えよう「ゲノム編集食品」

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去る6月3日、保険医協同組合では「『ゲノム編集』フードテックの動向と問題点」と題して総代会記念講演会を開催。参加者から「将来が心配」、「今後とも食の安全性に警鐘を鳴らしてほしい」といった声が聞かれました。


講演会では、講師の印鑰智哉(いんやくともや)さんから「ゲノム編集」の抱える問題点と現状について、詳しく、また分かりやすくお話しいただきました。

従来の遺伝子組み換えと何が異なる?

従来の遺伝子組み換えでは特定の作物に外来の遺伝子を挿入して、新たな性質を獲得(除草剤耐性など)させようとするのにくらべ、現在日本や多くの国で認可されているゲノム編集は、対象となる遺伝子の一部を破壊し、目的とする性質を出現させようとします。

これは自然界でも起こりうる突然変異を人為的に起こさせ、品種改良に役立てようというのです。

しかし、ゲノム編集を施された細胞は、破壊された遺伝子を修復しようとしますが、時に修復時にエラーが出てしまう事があります。

成功の確立はどのくらい?

遺伝子の一部を破壊するのに使われるものが、細菌がウィルスに対して持つ免疫遺伝子CRISPR-Cas9(クリスパーキャスナイン)で、これはセンサー付き遺伝子破壊術といえるものです。

対象となる細胞にCRISPR-Cas9を挿入し、遺伝子の一部を破壊させますが、成功率は極めて低く、数%程度です。

また、成功した細胞を選別するために、CRISPR-Cas9には抗生物質耐性遺伝子も同時に挿入しておき、後で抗生物質を作用させて耐性遺伝子を持たない細胞(CRISPR-Cas9の挿入ができていない)を死滅させ、生き残った細胞だけを取り出します。

「新しい遺伝子組み換え」

こうして作られた突然変異種には、挿入した外来の遺伝子が残っており、これを取り除く必要があります。
 
そのため二段階目の作業として「戻し交配」を行い、挿入遺伝子が入っておらず、かつ目的の遺伝子のみが破壊されたものを選別して、初めてゲノム編集は完成します。
 
しかし、アメリカではゲノム編集された牛から、本来取り除かれていなければならない抗生物質耐性遺伝子が検出されています。いまだ未完成な技術なのです。
 
結局のところ、ゲノム編集も遺伝子の一部に変化を加えることから、従来の遺伝子組み換え(GMO)に対して、ヨーロッパでは「New GMO(新しい遺伝子組み換え)」と言われています。

遺伝子のバランスを狂わせることに

ゲノム編集された細胞は、本来持っているはずの遺伝子を破壊されています。

例えば、成長を抑制する性質を失わせ、自然界ではあり得ないほど肉付きを良くさせたり、満腹感を感じる機能を失わせて過度に食べ物を食べるようにし、結果として短期間に大きく成長させるといった事が、すでにマダイやトラフグで行われています。
 
しかしそれらは、自然界で生き残るために重要な働きとなる性質を、人為的に失わせていることになります。
 
そんなものを人間が食べて大丈夫なのでしょうか?

グローバル資本による食や農の支配

ゲノム編集より歴史が長い遺伝子組み換え作物では、組み込んだ耐除草剤・耐害虫と同じ耐性を雑草や害虫が持つようになってしまい、既に栽培が上手く行かず減少に転じています。
 
ゲノム編集食品もいまだ人体への安全性、自然界への影響が完全に払拭されているわけではありません。
 
フードテック企業は、ゲノム編集食品を通じて食や農業を、特許を取ったゲノム編集種子を通じて支配しようとしています。
 
こうした事態を放置することは、生物の多様性すら失う事になり、環境変化に極めてもろくなってしまいます。
 
今こそ、私たちの食の安全をもう一度見直す時期に来ています。

布山 徹