イスラエル/ガザ戦争と世界のいま

先月号に引き続き、鵜飼哲さんの講演からイスラエル/パレスチナ情勢についてまとめました。

ハマスの軍事組織による 10.7のロケット弾攻撃以降、欧米諸国では、難民排斥などを掲げるレイシズム(人種主義)の極右勢力(反イスラム)と、反ユダヤ主義に反対する主流派政治勢力(親イスラエル)とが接近する事態に。これにより欧米諸国の世論は右傾化を見せ、さらにはマッカーシズム(赤狩り)の再来ともいうべき現象が現れています。

現代の“赤狩り”

アメリカのハーバード大学では、イスラエル/パレスチナをめぐる学生団体の言説に対して、共和党議員などから反ユダヤ主義とみなされ、それへの対応が手ぬるいとして学長が辞任に追い込まれています。フランスでは、反戦デモが反ユダヤ主義の兆候という理由で行政が禁止を命じ、さらに知識人の講演会が中止させられるなど、研究者や学生にまで圧力が公然・隠然に加えられています。
 
イスラエルは、ユダヤ教の中でもシオニストと呼ばれる人々によって建国されています。このため、現在のイスラエル批判は、ジェノサイドと指摘される激しい攻撃を行っていることや、これまでのパレスチナの人々を収奪してきた植民地主義的な政策のあり方に対するもので、イスラエル批判と反ユダヤ主義とは分けて考える必要があります。

死者数が3万人を超えたとされるにも関わらず、ガザでは空爆と地上侵攻が続き、病院やインフラ施設への攻撃も行われています。これにより、麻酔も鎮痛剤も全く足りない中で、負傷者の治療や、出産での帝王切開が行われ、中には出血過多を防ぐために子宮を切除することも。リプロダクション・ポリティクスの次元の問題になっています。

また、10.7以降、パレスチナのヨルダン川西岸地区では、完全武装のイスラエル兵によるパレスチナ人民家への深夜の「家宅捜索」や、人々の逮捕・拘留が行われ、自分の畑でオリーブを収穫中のパレスチナ人が銃を持ったイスラエル人入植者に撃たれて死亡する事件などが発生しています。

「我々は人間の顔をした動物と戦っている」

イスラエルではパレスチナ人に対して、「人間の顔をした動物と戦っている」(ガラント国防相2023.10)、といった発言が政府閣僚からでており、さらに10.7以前には「パレスチナ人(という人間)は存在しない」(スモトリッチ財務相2023.3)という発言もあります。

こうした、相手を歴史的存在として認めず、さらには人間性までも否定する態度は、「未開」「野蛮」とみなした地域・人々を容赦ない扱いをした、かつての植民地主義や、9.11以降の対テロ戦争の論理にも通じます。9.11と「対テロ戦争」を西側諸国が行った当時に指摘された、非国家主体による犯罪行為を「テロ」と呼ぶことで、司法による処罰ではなく「戦争」による殺人を正当化してしまう(西谷修)、という指摘を思い出す必要があります。また、パレスチナ人の置かれた状況はアパルトヘイトであり、南アフリカ共和国との類似性が指摘されています。

ヒューマン・ライツ・ウォッチ(国際人権NGO)は、パレスチナ人への政策や実際の対応・処遇をユダヤ系イスラエル人と比較調査し 、2021年にイスラエルをアパルトヘイトと迫害の罪に該当するという報告書を発表。ICJに南アフリカ共和国がイスラエルを提訴したのは、同国の歴史的背景によるものでもあります。

戦後の国際秩序から取りこぼされた人々 

先月号からみてきたように、現在の状況は、近代以降の植民地主義のひずみが、第二次大戦後も反省されないまま残され、その遺恨が現代に噴出したのが、10.7ということができます。これはイスラエル/パレスチナの二者の関係に留まらず、その原因を作った植民地主義諸国や、戦後の国際秩序を形成してきた私たち自身に関わるものです。

第二次大戦後の国際秩序は、平和と人道の維持を理念に掲げ、ベルリンの壁や天安門事件など権力の支配への民衆の抵抗は支持されてきましたが、イスラエルのガザ侵攻では停戦に向けた動きがとられていません。戦後の「国際秩序」の中で生存を保障されてきた私たちには、その「国際秩序」から取りこぼされてしまった人々に、これまできちんと向き合ってきたのか、そして、これからどう向き合うのかが、今、問われています。
事務局 中瀬